「Memento」 例えば、飛翔する夢。 頼りない浮遊感。両手で空を掴もうとするがゆっくりとしか動かない。静かに確実に落下して行く。 それがDNAに刻み込まれた記憶だとすると少なくとも母のものではあるまい。 彼女は15歳の終わりに僕を産んだ。 そして22歳の始めに姿を消した。 どう云う経緯でか、コーンウォールの縁戚の古びた屋敷に引き取られた彼女は世間とは隔絶された環境で育てられたそうだ。 無邪気で世離れした屈託の無い笑顔を覚えている。 と同時に、眉根を寄せて厳しい目で遠くを見つめる姿もたびたび目にした。 周囲の人々はグレースとかミリアムとか呼んでいたが、僕にはミアと呼ばせていた。 実際の話、ミアは謎だらけだった。 Back Next |