- 屈斜路湖 早朝フライフィッシングにて
- 屈斜路湖が今、熱いといううわさを聞いた。
ちょうど運よく1週間の休みがとれたので思いつくまま車に道具を積み込み出かけたのだった。
和琴キャンプ場でテントを張り、さっそく情報収集。キャンプ場の親父さんに場所を聞いて下見に行ってみた。
あまりポイントが無いようなので混んでいるだろうとの予想とは裏腹に誰もいなかった。
場所を間違ったかなと思いながらとりあえずためし釣りをしてみた。
虹鱒がライズしているもののなかなかかからない。しばらくすると地元のフライマンが現れ、今はこれが良いよと15番の
クロのパラシュートをひとつくれたので結んでキャストすると不思議なことに一投すると一匹、また一投すると
一匹、結局六投げで五匹釣れた。
しかし、そこでフライが壊れたのでそのフライマンとしばらく話をした後、明朝、再びここでと約束し別れた。
テントへ戻り、簡単な晩ご飯を作り、焚き火をおこし、バーボンでちびりちびりやりながら気持ちのいい夜を過ごした。
少し早めにシュラフに潜り込む。最後のちびりの最中に寝てしまったようだ。
夏の朝は早い。今日の釣りは日の出前には現地に行きたい。
朝、不思議なくらいパッと目がさめた。ちょうど3時。テントから顔を出すと空が青みがかっている。
周りのテントに気を使いながらテントから這い出してさぁ、出発だ。ポイントにはまだ誰もいなかった。
さっそく第一投。昨日のようにはいかなかったが、なんと気持ちのいい釣り場なのだ。まるでカナダか何処か外国の
ような広々とした雰囲気。青く澄んだ空。こんな所で釣りができるだけでも満足である。
しかし、夏とはいえ、北海道の湖は温度が低い。16度である。ネオプレーンのウェーダーを持ってくるんだった。
30分ぐらいしたら寒くなってきたのと、昨日の酒が効いたのだろう。急に腹が痛くなった。我慢をするにはちょっと
きついと感じたので限界が来る前に山の方へ走った。しかし10mも行くと限界がきてしまった。ウェーダーはこう
いう時、非常に不利だ。大あわてて大きい木の下で雉撃ち体勢に入った。
この開放感は外でしか味わえないだろう。
気持ちが落ち着いたので前に落ちている物を見ると、鹿の毛である。「おおっ、これがディアヘアか!」と感動しながら
ふと横を見るとなんと左1mのところにエゾシカのシャレコウベがあるではないか。何だ何だと周りを見ると私の周りに
骨がたくさんころがっている。しかも鹿の毛の絨毯の上に私のものが鎮座ましましている。
ちょっとこれは洒落にはならない状況である。屍の雰囲気から見て冬に餓死したものを狐などが食べたようだった。
ちょっとグッタリしたが「南無阿弥陀仏」と唱えてその場を去った。
- 喜茂別 早朝フライフィッシングにて
- フライの仲間3人で喜茂別の川に行った。
夏の朝は涼しくて気持ちいい。空はすっきり晴れている。今日は暑くなりそうだ。橋のたもとに車を置いて私たちは
川原を上流に向かって歩き出した。向こう岸が歩きやすそうだったので川を渡り、対岸の玉砂利の上を歩いた。
今日はもう釣れなくてもいいやと思うほど気持ちがいい。途中、何箇所か岸から離れて藪の中を歩いた。
その時である。臭い。えらく匂う。クマ牧場の匂いがした。「おいおいまじかよぅ」と緊張した。これだけ匂うということは
まだ新しいということだから、こっちをそばで見ているかもしれないと体を硬くしたが、他の2人は何処吹く風、どんどん
進んでいく。しようがないから私も進んだ。
しばらく行ったところでそれぞれ思い思い竿を出し釣り始めた。一人が私を呼ぶので側へ行くと対岸近くを指差す。よく見ると
尺はあろうかと思われる山女魚が2匹泳いでいる。彼がそこをめがけてキャストすると1匹が水面まであがってくるのが見えた。
しかし、また戻ってしまった。結局それは釣れなかったが、まだこの川にいい魚が残っていたことに安心した。
朝飯のおにぎりを食べてしばらく経っていた。天気もいいしここらでちょいと失礼して、私は林の奥へ向かった。20mほど行くと
なんとでかい葺きの群落が目の前に広がった。中ほどまで分け入りしゃごむとすっかり私が隠れてしまう。1mはあるだろう。
コロポックルの雰囲気だ。ここにマーキングをしてやろう。穴を掘り、雉撃ち体勢に入った。さっきのクマに対抗してやるとばかりに痕跡を残した。
さて仕上げるかとポケットを探るとないことに気が付いた。はれぇ、どうしたものか・・・と考え、とりあえず一本もぎとって
葉っぱで拭いてみた。しかし露でぬれた葉は拭き取るどころかただ伸ばすだけのようである。裏の面は小さい刺みたいのが生えていて
ちょっと勇気がいりそうだ。こいつぁまずいと思い、周りを見ると、去年の枯葉が地面の上に沢山ある。これはどうだろうと一枚
拾い上げた。枯れてしなしなだが柔らかい。思い切って試すとこれが なんとも優しい拭きごこちなのだ。
これ以上肌にやさしい物がこの世にあるだろうか。集めて持って帰ろうと思ったけど、きっとここの湿った
地面であるからたまたま柔らかいのだろうと思い直しその場を去った。
あれから2度ほど行ったがその場所はっきりわからず、見つけた葺はあの時の半分の大きさぐらいしかなかった。
地面の上にも枯れ葉は見つからず、あの感触はあれきりである。
- 支笏湖 初釣りルアーフィッシングにて
- さぁ、年の始まりである。一発目は大物を上げていい年にしようと友人とでかけた。
車を車道のわきに停め、身支度をして道具を持って出発だ。膝まで雪に埋まりながらかきわけ進み、湖畔にでた。後は狙うポイントまで
水際を進むだけだ。
500mほど歩いてそのポイントに着いた。竿を出し、リールを付けてガイドにテングスを通しルアーを結ぶ。
今年初の釣りだ。あせる気持ちを抑えつつ慎重に結んだ。一投目で結びがほどけてルアーだけ飛んでいったら最悪の一年に
なってしまう。
落ち着いて一投して巻いた。やっぱりそんな都合よく魚はかかってはくれなかった。まっ、現実はこんなもんだろう。その後はいつもの様に
投げて巻いての繰り返しが続いた。
30分のもすると気持ちが落ち着き、ふと空を見た。湖の反対側から大きい鳥が飛んでくる。それはなぜか真直ぐ自分に向かって
飛んで来るようだ。トビよりはでかい。オオワシだろうか。黒い猛禽だった。ひょっとして私を狙っているのかと考えたがはたして
そのワシは私の上まで来るとクルッと向きを変えまたもときた方向に飛んでいった。遠めに見て私が美味そうに見えたが側まで来て
ガッカリして帰ったという感じだ。失礼なやつだなぁ。
その直後、急に腹を刺すような痛みが走った。この痛みはちょっとまずい。さっきのワシが呪いをかけていったのか。
時間がないと感じ林へ向かって走った。しかし膝まで雪に埋まって思うように進まない。目の前の林がえらく遠く感じる。
必死で林の中へ入り雪を掻き分け適当な広さのスペースを確保しなければならない。雪を掘り分けると笹が出てきたのでそれを踏みつぶし
ウエーダーを脱いだ。あぁもう時間がない。急いで雉撃ち体勢に入った。その時である。何者かが私の中へするするすると進入してきた。おぉ、なんだなんだぁ、
と立ち上がると、そこには地面から高さ30cmくらいのところで茎が鋭角に折れた笹が立っていた。今のはこいつの仕業なのかっ。でもかなり深く進入したぞ。
しかもこんな鋭いものがよくもまぁ。1cm、いや数mm、いや1mmずれていただけでも大変なことになっていたかもしれない。ひょっとして
これはさっきのワシが呪いではなく私を救うための奇跡を起こすために来たのだろうか。その折れた笹の茎を見つめてどのくらいの時間が
経ったかわからない。その後、無事に腹痛から開放されることができたのだった。
あれから何度と支笏湖へ釣りに行ったが、二度とあのワシを見ることはなかった。
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